「小越章平記念Best Paper in 2010 」
膵頭十二指腸切除術におけるimmunonutrition の効果発現に関する細胞性免疫、Th1/ Th2 、Th17分化の関与の検討
鈴木大亮、古川勝規、木村文夫、清水宏明、吉留博之、大塚将之、加藤厚、吉富秀幸、宮崎勝
千葉大学大学院医学研究院 臓器制御外科学

 
【目的】

定時消化器外科手術の合併症発生率は改善されているが、未だ膵頭十二指腸切除術(PD)は合併症の多い術式のーつである。近年、immunonutrition は感染性合併症発生率の減少をもたらすことが報告されているが、効果発現機序に関する明確なエビデンスはない。今回我々はヘルパーT細胞に着目し、RCT によりPD に対するimmunonutrition の効果発現に関する細胞性免疫、Th1 / Th2 、Th17分化の関与を検討した。

【方法】

PD予定患者30名を対象とし無作為に以下の3群に分けた。①術前後群:手術6日前よりインパクトⓇ1000kcal / dayと普通食半量を5日間摂取し、術後翌日からインパクトⓇを経腸栄養にて投与した群。②術後群:術前は普通食のみで、術後は術前後群と同様に投与した群。③コントロール群:術前は普通食のみで、術後は中心静脈栄養管理とした群。評価項目としては侵襲反応、細胞性免疫能および、Th1 、Th2 、Th17の分化を検討した。さらに感染性合併症発生率を比較検討した。

【結果】

感染性合併症発生率はコントロール群に比べ術前後群で有意に減少していた。血漿IL- 6は術直後、術後翌日でコントロール群に比べ術前後群で有意に低かった。CRPは術後3日目で術前後群が他2群に比べ有意に低かった。細胞性免疫の指標となるCon A・PHA刺激リンパ球幼若化能は術後7日目で術前後群は他2群に比べ有意に高値であった。 Th1 /Th2 分化に関しては転写因子であるT-bet 、T – bet / GATA3 比は術後3日目で術前後群が他2 群に比べ有意に高値であった。Th17分化は転写因子であるRORγt が術後0 、1 、3日目に術前後群が他2群に比べ有意に高値であった。IL-17FのmRNAでの発現は術後3 、7日目に術前後群が他2群に比べ有意に高値であった。

【結語】

PD に対する術前後のimmunonutritionは術後侵襲反応、免疫抑制の低減をもたらした。その機序として、Th1 / Th2分化のTh2へのシフトを抑えることによる細胞性免疫の維持や、Th17分化の促進が関与していることが示唆された。