一般社団法人日本臨床栄養代謝学会では、2017年 6 月「静脈栄養製剤の禁忌事項記載の見直しに関する要望書」を厚生労働省および医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出し、一般用静脈栄養製剤の添付文書の禁忌を「重篤な腎障害のある患者(透析又は血液ろ過を受けている患者を除く)」等に変更することを要望してまいりました。

 低栄養状態または手術前後のアミノ酸、電解質および水分などの補給を目的として広く使用されている静脈栄養製剤は、「水分、電解質の過剰投与に陥りやすく、症状が悪化するおそれがある」もしくは「アミノ酸の代謝産物である尿素等が滞留し、症状が悪化するおそれがある」という理由で「重篤な腎障害のある患者」には禁忌となっていました。しかし、透析や血液ろ過を行っている患者では、水分、電解質およびアミノ酸などの低分子物質に加え腎不全患者で蓄積するとされる尿素窒素などの尿毒素物質は、透析や血液ろ過時に除去されるため、腎不全用の静脈栄養製剤だけでなく、一般用静脈栄養製剤の投与も可能と考えられます。海外のガイドラインにおいても透析患者に対しては標準製剤の使用が推奨されており、海外ではこれら製剤の大部分で透析患者は禁忌から除外されています。一方、本邦では「重篤な腎障害のある患者」に透析や血液ろ過を行っている患者が含まれるのか否かが明確でないため、これまで医療現場では解釈が定まらず混乱が生じていました。

 今回、透析や血液ろ過を受けている患者が禁忌から除外されたことにより、制限的な保存期と違い、健常人よりも積極的な蛋白摂取が必要とされている透析期の患者に対して、標準製剤の高濃度アミノ酸(一般用製剤)が選択可能となり、アミノ酸濃度の低い腎不全用製剤よりも液量当たりのアミノ酸補給量を増加でき、水分制限も含めてより適した栄養管理ができるようになりました。さらに今回は、混合業務負担の少ないキット製剤においても同様に禁忌が除外されたことで、製剤選択の幅が広がり、感染制御の観点からのメリットも考えられます。また、これまで有効な治療手段を選択できなかった透析患者での昏睡を含む肝性脳症の意識障害に対しても、治療薬として肝不全用アミノ酸輸液製剤が投与可能となりました。

 しかし、注意点も存在します。透析などの腎代替え療法ではアミノ酸やたんぱく質の喪失はその種類や強度によって様々であるため、各療法による喪失量を考慮して投与量を決定しなければなりません。また、一般静脈栄養製剤には各種電解質が含まれており、電解質、特にカリウムおよびリンなどの管理には十分な配慮が必要です。静脈栄養を必要とする透析患者では低栄養状態もみられ、低カリウム、低リン血症に陥っていることがあり、一般静脈栄養製剤の投与時には常に電解質を評価し、必要に応じて電解質の補給を実施してください。