1. 術後回復促進策における負の側面とその対策 [一部指定。募集あり] |
術後合併症の減少、身体的回復の促進、ひいては術後在院日数の短縮を目指して、Fast-track surgery、ERASなどの術後回復促進策が我が国でも普及してきました。しかし近年、回復促進の本来の意義を忘れてERAS 推奨事項の忠実な遵守に固執するあまりに、却って不都合な結果を招く事例も散見されるようになっています。術前腸管処置回避による手術への影響、ドライサイドな周術期輸液管理の危険、硬膜外鎮痛の是非、術後早期離床のリスク、術後早期経口摂取開始のリスクなどに関して事例やデータを提示し、その原因の考察と、リスクマネジメント対策を論じていただきたいと考えております。現時点では負の側面となり得るこれらの問題をクリアしてこそ術後回復促進策のメリットをしっかりと享受できるようになり、周術期管理の安全性は一層高まるはずです。 |
2. リハビリテーション栄養管理のリスクマネジメント |
リハビリテーション(以下リハ)と栄養管理の両方を要する高齢者や障害者では、リハや栄養管理にリスクが存在しないとは考えにくいです。「リハからみた栄養管理のリスクマネジメント」が必要ですが、「栄養からみたリハのリスクマネジメント」も重要です。リハを行っている高齢者や障害者の栄養管理が不適切だった場合にNST 依頼することや、NST 介入患者にリハを要する場合にリハ科併診もしくはリハオーダーすることは、最低限のリスクマネジメントです。リハからみた栄養管理のリスクマネジメントとして、リハでのエネルギー消費量と栄養改善目的のエネルギー蓄積量を考慮した栄養管理、訓練時間確保のための半固形化栄養、肺炎で入院した高齢者などへの早期経口摂取が挙げられます。一方、不適切な栄養管理下で筋肉量増加目的のリハを行っても逆効果となります。本シンポジウムでは、リハ栄養管理のリスクマネジメントに関する量的研究、質的研究の演題応募を期待します。 |
3. がん治療における栄養の力 |
今やがん治療において栄養の力が大きいことに異論はないとされています。一方、がん治療の柱である手術療法、化学療法、そして放射線療法における栄養療法のエビデンスに関しては、決定的なものが少ないとも言われています。
今回、がん治療において、栄養がどれだけ治療効果を助けることが出来るのか?または栄養障害がどれだけ危険性を高めるのかを、エビデンスや治療効果を見て取れる症例検討によって示していただきたいと考えております。
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4. 栄養療法におけるディバイス管理上のリスクマネジメント -ディベート編-[一部指定。募集あり] |
栄養療法においては、使用するディバイスの選択と管理には、いまだ論争の多い分野やガイドラインの推奨内容の変化もあります。今回、栄養療法で汎用されるディバイス管理について、2つの異なる立場でエビデンスに基づいたディベートを展開いただきます。テーマは【1】脳梗塞後(60歳、女性)―経鼻胃管管理時、経鼻胃管先端が胃内にあることの確認方法:胃液吸引vs. X 線、【2】PEG が困難なとき:PTEG vs. 開腹腸瘻造設、【3】食道全摘術・食道胃管吻合術後(70歳、男性)―空腸カテーテル閉塞防止対策:酢水vs. 微温湯、【4】短腸症候群(50 歳、男性、残存小腸50cm)―Central Line-Associated Bloodstream Infection(CLABSI) 時の第一選択は:カテーテル抜去vs. カテーテル交換、【5】小腸クローン病(40歳、女性)でHPN ルートの選択:SVC vs. PICC、を予定しています。なおディベートはLincoln-Douglas 方式でおこない、立論・質疑応答・反駁が各1回ずつ、勝敗の最終判断は、当日会場にご参加された方々の支持数で決します。 |
5. 高齢者における栄養学的リスクマネジメント |
社会の高齢化が加速するなかで、医療現場では高齢者に対する質の高い栄養管理の提供がますます要求されています。高齢者はサルコペニア、フレイル、認知症、諸臓器機能の低下など様々なリスクを内包しており、それらが治療抵抗性を高め合併症発生頻度を増加させる一因となっています。同時に、加齢に伴う様々な代謝変化が有効な栄養管理の実践を一層複雑にしています。さらに高齢者終末期医療に関する最近の論議は、高齢者に対する栄養管理の在り方そのものを問いかけています。これらの観点から高齢者の栄養管理は今後の臨床栄養の中心的課題となることが予測されます。そこで本シンポジウムでは、高齢者栄養管理において、内包する栄養学的リスクならび栄養管理上のリスクをいかにマネジメントするかについて、外科的、内科的アプローチの両面から論じてみたいと考えております。そして高齢者栄養管理が将来進むべき方向性を臨床に携わる多くの医療従事者へ提示できることを望みたいです。
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6. 認知症の摂食障害にどのように対応するのか? |
超高齢社会の進行にともない、認知症高齢者数も著しく増加しています。認知症高齢者の場合、栄養を摂取してもらいたいのに、なかなか食事を摂ってもらえなくて困るという声を多く耳にします。胃瘻の造設数が減少傾向である昨今、このような事例はさらに増加する可能性が高いと思われます。合併症を発症せず、安定した生活を続けてほしい、リハビリテーションを行って、在宅などでの療養を続けてもらいたい、そう思っても、食事を食べてもらえないことには、栄養状態は改善しないどころか、徐々に悪化していってしまうことさえあります。折しも、政府は、認知症対策を今後の国家戦略のひとつとも位置付けています。JSPENにおいても、このような認知症の摂食障害にどのように対応していくかという議論が積極的に行われるとよいのではと考えます。認知症高齢者の摂食障害の問題点と、それに対するみなさんの取り組みのご発表を募集いたします。
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7. 地域連携の推進に関する諸問題と対策 |
多種の連携が地域で活動しているが、地域連携における共通言語は「栄養」ではないでしょうか。これについて現在までは個々のNSTが中心となって個別に全国展開し推進してきました。従来は入院中から退院後へとの切れ目のない栄養治療を継続する必要性の重視された病病、病診、病施設連携等が主でした。しかし今後は、ゆりかごから墓場まで、つまり在宅を含め周産期からの栄養教育や健康寿命を延ばす事を視野に入れた地域連携を構築する必要があります。
本学会JSPENでは学術医療系一般社団法人として、地域連携推進委員会を通じてWAVES ( We Are Very Educators for Society )を構築し活動しています。これはPeople Education program(市民教育プログラム)で将来的に栄養管理の対象となる超高齢者のみならず、健康人の栄養状態の維持・向上の基盤確立を目的とするもので社会貢献事業です。超高齢化社会での地域医療においては、医療だけでなく介護も必須であり、また療養の形態により健康保険や介護保険などをはじめ利用できる行政サービスも様々です。双方の連携に係る診療報酬制度上の評価も十分なものとは言えず深刻な問題となっています。
本シンポジウムでは現状の問題点を分析し、将来の現場レベルでの地域連携の質的向上を目指し、地域での栄養療法の基盤構築などの取り組みを示して頂き、今後の更なる推進に向けた打開策を議論していきたいと思います。
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8. 緩和ケアにおける栄養学的リスクマネジメント |
緩和ケアにおける栄養サポートが重要であることは言うまでもありません。特に悪液質における栄養障害、サルコぺニアは患者のQOL を著しく低下させるために、栄養サポートの重要性が認識されています。しかし同時に、ギアチェンジの時期を誤ると、栄養サポートそのものが患者のQOL を損なうという難しさもあります。さまざまな方法で栄養サポートが行われますが、緩和ケア特有のリスクもあります。特に、せん妄などによるライン抜去、ガストロボタン抜去とそのことによる合併症は頻度の高いリスクです。サルコぺニアを背景にした転倒転落は患者のQOL を一気に損なう原因となります。患者急変時の口頭指示は誤認の原因となり、使用薬剤や患者の状態から重大なアクシデントの誘因になります。本シンポシウムでは、このような緩和ケアにおける、栄養療法に特有なリスクを網羅し、その対策に関して共通の認識を得ることができればと考えます。 |
9. 肝・胆・膵疾患の栄養管理における諸問題と対策 |
近年の肝疾患に対する薬物療法の進歩にはめざましいものがあり、特にC型肝炎の克服が視野に入ってきたことは多くの患者にとって朗報です。しかしそれでもなお、ウイルス排除後の管理、慢性肝疾患患者の高齢化、アルコールや脂肪肝などの代謝性肝疾患の増加、糖尿病患者における肝障害など、栄養学的アプローチが必要な分野が肝疾患領域には多く残されています。また、胆・膵疾患においては、急性期には食事制限が基本であるにしても、回復期や重症病態における最適な栄養学的介入のタイミング、投与経路および栄養成分については議論の分かれるところです。このシンポジウムでは、現時点での肝・胆・膵疾患への栄養治療に関するエビデンスと課題を明らかにし、さらにその解決に必要なアプローチや、今後期待される栄養学的介入方法についてディスカッションしていただきたいと考えております。 |
10. 救急・集中治療領域における栄養学的リスクマネジメント:より安全で有効な栄養療法をめざして |
重症患者に対する早期からの栄養療法の重要性は広く認識されています。本学会、集中治療医学会、呼吸療法医学会等からも重症患者の栄養療法に関するガイドラインが発刊され、治療の一環として実施されています。基本原則は、入院時からの栄養評価、早期経腸栄養、血糖値管理です。特に(超)高齢者などの栄養リスクを有する症例では原疾患の治療に並行する栄養療法およびリハビリテーションの実施は、早期離床に必須となります。
しかし一方で、侵襲下では血液生化学データによる栄養評価項目に有効なものはありません。適切なエネルギー設定、各種栄養素の効果についても一定の見解は無く論点となっています。さらに安全に安定して経腸栄養を行うための経管栄養法、排便調整を含む腸管管理法も各施設の工夫による分野です。つまり栄養療法自体がリスクと背反となっています。
そのような現状を踏まえ重症患者に於いて、よりよいアウトカムを得るため各施設で行っている栄養管理上の工夫・方法、各種介入による効果を発表いただきたいと考えています。本邦における現状を確認し、その上で今後の方向性を議論したいと考えています。
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11. 医師、メディカルスタッフに対する臨床栄養教育の諸問題 |
病院をはじめ、臨床の現場で栄養管理のチーム医療を展開する各職種のメンバーは、異なった卒前教育を受けているために、お互いの力量を測ることが困難でした。そこで、職場の勉強会や学会セミナーなどが卒後教育の場を担ってきました。しかし、これらは安全で有用な栄養療法を提供する医療人教育の責務を十分に果たしているのでしょうか。進歩を続ける医療機器の安全な取り扱いを管理栄養士が理解できているか、生体への影響が明らかな食品について、薬剤師が十分な知識を持っているかなど、過去においては、各職種が担当することのなかった内容が、臨床の現場では話題の中心となっています。新たな臨床課題を抵抗なく受け入れ、各職種が持つ利点を生かした栄養管理を実践して行くには、やはり、卒前教育の改善が必要なのでしょうか。もし、必要ならば、それはどのような改革でしょうか。臨床栄養教育に関する諸問題を様々な視点からご発表いただき、シンポジストによる議論の結論を未来に向けたメッセージとして発信したいと考えております。 |
12. 小児腸管機能不全に対する栄養治療戦略と問題点 |
腸管機能不全は、消化吸収障害や腸管蠕動障害などにより消化管を用いた栄養が困難で、長期静脈栄養を要する病態です。多くは乳幼児期に発症し、長期栄養管理下に成人へとtransitionしていきます。根治的な治療法としては小腸移植があるが、実施症例はいまだ少ない状況です。このため小児腸管機能不全に対する治療は長期静脈栄養による治療が主で、経腸栄養剤の併用や腸瘻が造設されることもあります。しかし長期栄養治療を行う経過中には、反復性のカテーテル関連血流感染症、中心静脈アクセス血管の閉塞、胆汁うっ滞に伴う進行性の肝機能障害、腸管うっ滞に伴う腸内細菌叢の異常やbacterial overgrowth による腸炎、敗血症、微量元素などの種々の栄養素の欠乏症や過剰症、尿路結石、成長障害や精神発達遅滞など多くの問題に直面します。本シンポジウムでは小児腸管機能不全に対するこれら問題点に対し、全方位的な栄養管理の治療戦略を検討していきたいと考えています。
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13. 病態に即した小児の栄養療法 |
小児の栄養療法を考える上での特徴は、成長・発達すること、病態ごとに異なる対応を必要とする分野であることがあげられます。これまでは特に病態ごとの対応法についての情報が不足しており、情報を得るには英語の教科書をひもとく必要もありました。しかしながら近年、本邦においても、病態に即した栄養療法の取り組みが各地で進展し、情報が集積し、方法論も確立されつつあります。そこでこのたび、先天性代謝異常、摂食行動障害、先天性心疾患、小児がん、アレルギー、重症心身障害などの分野において、それぞれのエキスパートに現在までの到達点を解説していただくことにしました。これらの情報は、広く日本中の小児の臨床現場に届いて、活用されることが望まれます。また、今後の小児の栄養療法の進むべき道を展望することにもつなげたいと思います。 |
14. COPD における栄養学的リスクマネジメント |
COPD 患者において栄養障害は最も重要な併存症のひとつであり、閉塞性換気障害とは独立した予後因子となっています。呼吸機能の経年的悪化や増悪の合併に伴い、栄養障害が進行し、栄養障害がさらに病態を増悪させるリスクファクターともなるため、早期から栄養学的リスクマネジメントが必要と考えられます。また、栄養障害の原因として複合的要因が関与することや、主として高齢者にみられる疾患であるという特徴からも栄養学的介入が奏功しないリスクも高いと言えます。近年、COPD では身体活動性が最も重要な予後因子として認識されています。身体活動性の向上という観点から、筋蛋白量の減少に基づく生理機能の低下に対しては栄養療法に加えて運動療法の併用が必須と考えられます。本シンポジウムでは、COPD における栄養評価や栄養学的介入、運動療法の併用を含めた、栄養障害のリスクマネジメントをいかに行い、予後やQOL の改善につなげるかを議論したいと考えております。 |
15. 腎疾患における栄養学的リスクマネジメント [一部指定。募集あり] |
現在、慢性腎臓病(CKD)患者は全国に約1300万人おり、うち透析患者は約30万人です。急性腎障害(AKI)患者もICU 入室患者の約36%でみられるとされ、近年、患者数は増加しています。腎臓は生体のホメオスターシス維持のみならず、栄養代謝にも深く関与する臓器です。また、腎疾患における低栄養状態についてprotein-energywasting(PEW)という概念も定義されました。PEW では、尿毒症環境により食欲関連ホルモンの異常に伴う食欲低下が生じることに加え、代謝性アシドーシス、炎症等に起因する蛋白異化・エネルギー代謝亢進をきたします。加えて、侵襲状態にあるCKD 患者や創傷治癒を促進すべきCKD 患者に対する栄養管理はどうするか、一般的に併存疾患の多いAKI 患者に対する栄養管理はどうするか、といったように検討すべきことは山ほどあります。本シンポジウムにおいては、腎疾患における栄養学的な問題点およびその解決法につき参加者とともに共有したいと考えております。
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