この度,日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)の理事長を拝命いたしました比企直樹です.大役を仰せつかり身の引き締まる思いですが,使命を全うすべく全力を尽くす所存です.
 1991年に初めて小越章平先生主催の第6回静脈・経腸栄養研究会に参加し,臨床栄養学をdiscussionで語り尽くす素晴らしさを強く感じた研修医の頃には,まさかこの歴史ある学会の運営に携わるとは思ってもいませんでした.
 昨年より,COVID-19 によるパンデミックという大きな社会問題に加えて,本学会にも大きな津波がやって参りました.前理事長のご体調による退任です.この波に本学会が大きく揺れた時,子供の頃に習った「福沢諭吉ここに在り」の歌詞を思い出しました.上野の山で官軍による戦いが始まった時,騒ぐ人々に溢れる大江戸で,福沢諭吉がただひとり,上野から8 キロ離れた芝新銭座でいつも通りに授業をしていたことを表した歌詞です.このような時だからこそ心を落ち着けて,私が30 年前に静脈・経腸栄養研究会で感じた,学問をすることの尊さを実感できるような学会にしたいと強く思いました.「学会誌JSPEN」は本学会員の重要な学びの場であり,母国語で研究成果を発表できる最高のステージだと考えています.
 私は,がん専門病院である「がん研有明病院」に消化器外科医として15 年勤務し,日本一のがん手術症例数に対する診療に携わってまいりました.ここで学んだことは,我々が解決しなければならない問題は病室に行って初めてわかる,つまり「Clinical question は常にベッドサイドにある」ということでした.「学会誌JSPEN」では,多くの「Clinical question」に対して,その疑問を丁寧かつ科学的に紐解いていくような論文を掲載してゆきたいと思います.
 若きJSPEN の研究者の論文投稿のために,ここではいくつかの論文推敲のための要点を述べさせていただきます.1)「Clinical question」は一問一答であること(ひとつの疑問に対して,決して多くの答えを求めず,基本的に一問一答を遵守する),2)背景(introduction)には明らかに事実と認められていることだけを現在形で述べ,ここで自分の考えは述べないこと,3)仮説を解き明かすための研究プラン(方法概略)を簡潔に述べること,4)方法,結果においては,手法別に順序を揃えて結果のみを提示し,決して結果についての考察を行わない(結果から読者を誘導しない)こと,5)考察においては,何より自分の結果についての考察を行い,introduction で示した仮説を導く上で,自らの結果に整合性があるのかを考察する(単に他者の論文を引用することが考察ではない.過去の論文を引用する意義は,自らの結果から得られ,かつ仮説という道筋が正しいかどうかを過去の論文から確認する)こと,6)考察の最後には,本論文が導き出した仮説の整合性について,あくまで客観的な結語を述べること,以上のような論文推敲の基本を守って,どんどん素晴らしい論文を「学会誌JSPEN」に投稿していただきたいと思います.
 理事として2013 年11 月の法人化に携わり,その後,監事として一歩引いたところから学会の活動を拝見して感じたことを活かし,JSPEN を落ち着いて学問が出来る場で,さらに教育に落とし込むことが出来るような学会に改革してゆきたいと思っております.やることは山ほどあります.理事長に就任したばかりで初心者マークが取れないと言ってはいられません.2 万人以上の学会員に学びの場としての本学会を提供できるように,理事・監事,代議員そして会員の皆様とともにアクセル全開で取り組んで参りたいと思います.どうか,ご支援,ご指導のほど何卒よろしくお願い申し上げます.