2021 年 4 月から学会誌 JSPEN の編集委員長を拝命しました.浅学非才の身ではありますが,何卒よろしくお願い致します.学会誌で発信される内容は学術団体の質を表現するといってもいいと思うので,是非とも良い論文を掲載したいと思います.では「良い論文」とは何でしょうか?論文の内容をよく考えて,読んでもらえる学術雑誌を選ぶことがまず第一です.この点,学会誌JSPEN は栄養学に関連したテーマであれば,全ての内容が掲載可能であり,しかも同じように栄養学に興味がある多くの人が読む学術雑誌ですので,投稿するにも読んで学ぶにも最適な和文雑誌といえるでしょう.
さて一方で,報告に値する内容というのは,学術雑誌によらず同じような基準があり,それを守る必要があります.原著や臨床経験のような研究論文では,最近はまず倫理的配慮が重要です.「厚生労働省の研究倫理審査委員会報告システム」に掲載されていないと正式な倫理委員会とは認められないので,施設の倫理委員会がここに掲載されていることを確認してから研究を開始する必要があります.また,栄養学関連の論文では,薬剤や栄養剤に関する研究もしばしば投稿されます.前向き研究では,企業との利益相反も明確にせねばなりません.これらの手続きをきちんと踏んでいないと,投稿された時点で後戻り出来ないことになり,せっかくの研究結果がどこにも公表出来ないといった事態になる可能性もあるのです.そして,適切な研究目的,正しい方法,正確な結果の説明と,読者へのメッセージを結語にした考察が必要です.本文で使う文章も簡潔で分かりやすい表現が望ましいです.例えば「A と B の間に有意差を認めた.」といった表現はしばしばみられる文章ですが,この一文ではどちらが多いのか,高いのか,分かりません.「A は B より有意に高かった.」とすれば,一文で分かります.
症例報告では,報告に値すると考える理由として,疾患や病態の稀少性がまず考えられます.まずは「あまり遭遇しない稀な疾患」の経験ということが報告のモチベーションになるでしょう.加えて学会誌 JSPEN では,「新しく工夫された栄養管理(治療)」の経験が新知見になることも多々あります.しかし,ここで問題なのは考察です.しばしばその稀な疾患についての疫学・難しい診断・確立されていない治療の内容など,「事後的視点」での定番の教科書的解説に終始して,結語は「今回われわれは…の 1 例を経験したので文献的考察を加えて報告した.」で結ばれています.しかし,こうした内容の症例報告から,臨床家は今後の診療に何を活かせるでしょうか?重要なことは,「治療前にどのような状況や検査所見でその疾患に遭遇したか」「どのような状況でその治療法や管理法を選択したか」であり,「事前的視点」での考察が必須です.つまり,今回報告する,比較的稀な病気や治療法が,ある条件下では「念頭におくべき選択肢」の一つになることを提言するのが,臨床の症例報告ではないでしょうか.考察が既報とほとんど変わらないのでは,報告の価値は高くないですし,「文献的考察を加えて報告した」のは当然のことで,結語として適切ではないと思います.
最後に,最近私が感じるのは,投稿前に著者全員でよく推敲してほしいということです.特に若手の筆者は,自分自身では気が付かない問題点を指導者はじめ共著者に指摘してもらえることが多いと思います.逆に指導的立場の先生は,お忙しいとは思いますが,ぜひきちんと若い筆者を指導して下さい.また,全ての著者は論文に対して責任があります.海外の雑誌では一般的な authorʼs contribution(著者の貢献)についても,今後は投稿規定を改訂して記載を求める予定です.著者全員でよく推敲して投稿されたのだろうなあ,と感じる論文の熱意は査読者に必ず伝わるもので,何度かやりとりした後の採用決定時には,査読者も著者の一人になったような達成感があるものです.
今回,比企直樹新理事長の下で編集委員会委員も一新され,学会事務局担当者も学会誌 JSPENのために熱い情熱を注いでくれています.厳しい査読意見もあるかもしれませんが,栄養学に関連する新知見を「良い論文」として一つでも多く学会誌 JSPEN から発信できるように,査読者も編集委員も著者と一緒に勉強させていただき,ご支援させていただきます.会員の皆様のご理解と新規投稿を心よりお待ちしております.
2021年7月吉日
e-journal「学会誌 JSPEN」編集委員長
千葉県がんセンター 診療部長(食道・胃腸外科)
鍋谷 圭宏
編集委員会
委 員 長:鍋谷圭宏
副委員長:千葉正博
編集委員:大平雅一 小山 諭 立石 渉
長沼 篤 林 宏行 丸山常彦
森實敏夫
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学会誌JSPEN Vol.3 No.3
令和3年7月25日発行
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