新人や学生を見ていて思うことは,優秀なものほど,こまめに調べ物をすることである.実際の医療の現場では,会話の中に普段聞き慣れない言葉が結構出てくるもので,優秀な方々はその場でさっと辞書(最近は携帯ですが)を引く,そして書いてなければ質問してくる.逆に,そういったことを面倒くさがり聞き流してしまう方々が研究者として大成するのか,はたはた疑問に感じることがある.持論は当然必要であるが,論理的裏付けがあってこそである.という私自身も,自分で経験をある程度積んでくると,調べものの機会は減り,興味深い新規論文でさえ,見落としてしまうことが出てきている.このままではいけないと思いつつも忙しさに紛れ,すべて後回しにしがちなのが,今日この頃である.とはいえ,本号ではエネルギー必要量を論じたもの,栄養介入後の効果を見たもの,NSTの現状報告,あるいは希少疾患である気腫性胃炎の症例報告など多様な論文が収載されている.非常に読み応えのある一冊であり,数時間で読破してしまった.
それでは,論文を調べる・読むモチベーションは,どのようにすれば上がるのか?近年は,web情報飽食の時代と言われるように,大変な思いをして論文を読まなくても,少しwebで調べれば正誤は別としても,大なり小なり答えが返ってくる.実はこの状況こそが,モチベーションをあげるのを難しくする要因なのではないか?イノベーティブな挑戦をおこなってこそ,その結果としてモチベーションが付随してくる.しかし,医療の現場でも画一化が急速に進み,イノベーティブな挑戦を行える機会が激減してきている.このチャレンジがしにくい現状をダニエル・ピンクに見せれば,「モチベーション2.0」への回帰はやむなしと結論付けるのではないか.モチベーションの根底は欲求である.我々デジタルイミグラント世代は,知識への欲求を多様な論文の中にもとめ,機会あるごとに新たな理論にまとめることで満たしてきた.刻々と変化する世界への柔軟性と高い共感能力をもつネットネイティブ世代の若者には,我々とは異なった方法があるのかもしれない.とはいえ,浅薄な概括的知識に終始することなく深慮遠謀を貫いてこそ,欲求は満たされるものである.つまるところ,欲求を満たすための方法は違えども,2つの世代のモチベーションのありかたは同じところに辿り着くのかもしれない.
ここ最近,自粛ムードのため思うような学術集会開催もままならない状況が続いている.しかし,今年の4月に本学会も大きく変革し,少しずつではあるが若手を主体とした新たな取り組みがはじまっている.このような状況だからこそ,継続して幅広い方々に挑戦する機会をもってもらい,それを後押ししていくことで,会員全体のモチベーションが高まればと,今はただ切に願うばかりである.(自粛の中での切望)
2021年9月吉日
e-journal「学会誌 JSPEN」編集委員会 副委員長
昭和大学薬学部 臨床薬学講座 臨床栄養代謝学部門 教授
昭和大学医学部 外科学講座 小児外科学部門 兼担
千葉 正博
編集委員会
委 員 長:鍋谷圭宏
副委員長:千葉正博
編集委員:大平雅一 小山 諭 立石 渉
長沼 篤 林 宏行 丸山常彦
森實敏夫
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学会誌JSPEN Vol.3 No.4
令和3年9月30日発行
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