要旨
症例は70 歳,女性.67 歳時に胃がんで開腹胃全摘術,Roux-en-Y 結腸前再建術を施行され再発なく経過した.術後3 年半後から両下肢浮腫や動悸息切れを認めた.血液検査で血清セレン7.9 μg/dL,大球性貧血,高度の低Alb 血症,FreeT3 低値を認め,脂肪便陽性であった.腹部骨盤部造影CTは消化管全体の浮腫を認め,蛋白漏出アルブミンシンチでは異常を認めなかった.爪・皮膚症状,心筋障害,心電図異常は認めなかったが,その後下肢の筋力低下,歩行困難を認め,亜セレン酸ナトリウム補充で改善したことからミオパチーを主症状とするセレン欠乏症と確定診断した.セレン補充量を行うも改善に乏しく永眠された.セレン欠乏によるミオパチーは静脈栄養や経腸栄養を必要とする患者で稀にみられるが,自験例は通常の経口摂取を行っていた患者に胃全摘術後の吸収不良が生じ,セレン欠乏症によるミオパチーを発症したと考えられた.
学会誌JSPEN Vol.5 No.2
ミオパチーを発症した胃全摘術後吸収不良症候群によるセレン欠乏症の1例
著者
矢部正浩
所属
新潟市民病院 総合診療内科
キーワード
セレン欠乏,ミオパチー,胃全摘術後吸収不良症候群
DOI
10.11244/ejspen.5.2_81