要旨
症例は72 歳女性.4 年前に頭部を打撲,この際に撮影された頭部MRIで偶発的にラトケ嚢胞を指摘されたが,その後受診が途絶えていた.3 カ月前より食思不振を認め,体重が10 kg 以上減少,2 カ月前より意識レベル低下,体動困難で当院に救急搬送された.頭部MRIでは腫瘍の明らかな増大を認めたため,手術目的で入院となった.来院時Japan Coma Scale 1,明らかな麻痺はなく,対座法で両耳側半盲が認められた.頭部CTでは最大径29 mmの鞍上部腫瘍を認め,視床下部に進展していた.経蝶形骨洞的にアプローチを行い,内視鏡を併用して嚢胞内容の部分摘出を行った.術後より症状は改善し,modified Rankin Scale 0で独歩退院した.ラトケ嚢胞は良性の経過を辿ることが多いが,本症例のように大きく後上方に進展すると食思不振を認めることがある.従って,稀ではあるが,食思不振を訴える高齢患者では念頭におくべき疾患の一つと考えられる.
学会誌JSPEN Vol.5 No.2
食思不振で発症したラトケ嚢胞の一例
著者
定政信猛
所属
康生会武田病院 脳神経外科
キーワード
ラトケ嚢胞,食思不振,視床下部
DOI
10.11244/ejspen.5.2_89