症例は67歳,女性.便潜血陽性で前医を受診した.下部消化管内視鏡検査でS状結腸の亜全周性大腸がんと横行結腸左側から下行結腸にかけて発赤,糜爛,線状潰瘍の閉塞性大腸炎の所見を認め当院を紹介された.通過障害の症状を認めなかったため外来にて酪酸菌製剤を投与したところ,2週間後の内視鏡検査で腫瘍口側の大腸の病変は完全に治癒していた.術中所見でもがんの口側の大腸に異常を認めなかったため通常の切除範囲の腹腔鏡下S状結腸切除術を施行,経過良好で術後8日目に退院した.病理所見も閉塞性大腸炎の所見は認めなかった.閉塞性大腸炎の病因として,腸管内圧の上昇による腸管壁の虚血性腸炎の他に,腸内容停滞による腸内細菌の異常増殖の報告がある.酪酸菌製剤は大腸内で酪酸を産生し,酪酸は腸管上皮細胞の増殖作用と,大腸粘膜での抗炎症効果が報告されている.酪酸菌製剤を術前経口投与し閉塞性大腸炎の治癒後に手術を施行した症例を経験した.