私の初の海外発表は,もうずいぶん前のこととなるが,忘れもしないシンガポールで開催された学会の時である.私自身は,英語にそれほど苦手感はないものの,それはあくまで日常会話の話である.専門用語をどこまで駆使して説明できるかは別の話となる.発表前日,ホテルの自室で発表原稿を何度も練習しつつウロウロ歩き回っていた時,チャイムの音がしたためドアを開けると……誰もいない.部屋の外に出てみると,なんと隣の部屋のルームサービスが来ていたようだ.練習を再開しようと意気込みつつ,部屋に戻ろうとした時である~ドアが開かない!発表のことで頭がいっぱいで,オートロックであることを失念していた!幸いなことに,隣にルームサービスに来ていたボーイに説明して,すぐにドアを開けて部屋に戻ることができたが,部屋に入ると何とも言えない安堵感から,ビールを飲んでそのまま寝てしまった.逆によく眠れたためであろうか,発表当日は焦ることもなくリラックスでき,つつがなく質疑応答も進めることができた.全部出し切れたこの成功体験が,現在のモチベーションの源泉となっていることは,疑いようのないことであろう.
 “モチベーションは成功体験が,テクニックは失敗体験が育てる”とはよく言ったもので,何かへの挑戦が首尾良く終わると,なんとも喜ばしいものである.嬉しいので再挑戦したくなる.これがモチベーションに繋がる.逆に失敗すると,口惜しい.悔しいから,失敗した原因を考える.これがテクニックにつながるわけである.このように,モチベーションを高めるには成功体験をすることが大切ではあるが,これは必ずしも自分のものである必要はない.映画やドラマ,本の作品の中での成功体験を擬似体験することでも,人生の楽しさや魅力など知ることができ,やりがいにもつながるであろう.是非,本誌で取り上げている海外学会参加記をゆったりと休憩時間にでも読んでいただき,パワーチャージしていただければ幸いである.
[「The Bucket List」(最高の人生の見つけ方)を見つつ思うこと]

2023 年11 月吉日
e-journal「学会誌JSPEN」編集委員会 
昭和大学薬学部臨床薬学講座臨床栄養代謝学部門
                   千葉正博
編集委員会
委 員 長:亀井 尚
副委員長:千葉正博
編集委員:天野良亮  井田 智  神谷貴樹
     立石 渉  長沼 篤  中山真美
     森實敏夫
顧  問:鍋谷圭宏

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学会誌JSPEN Vol.5 No.5
令和5年11月30日発行

一般社団法人 日本臨床栄養代謝学会
〒103-0022 東京都中央区日本橋室町4丁目4-3
喜助日本橋室町ビル4階
MAIL:jimukyoku@jspen.or.jp

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