74歳女性.脳梗塞の既往があり徐々に低活動・低栄養などでサルコペニアへ移行し嚥下障害による誤嚥性肺炎を反復した.数度目の誤嚥性肺炎で入院の際,るい瘦(Body Mass Index 13.5 kg/m2)著しく重度の嚥下障害も認めた.主治医は,いわば「終末期」であり経口摂取は困難・看取りの段階と判断したが,本人・家族は経口摂取再開へ強い意欲を持っていた.多職種カンファレンスで倫理的問題も含め再検討し,誤嚥防止術(声門下喉頭閉鎖術)施行の方針とした.術後,嚥下造影検査で誤嚥の防止と嚥下機能の改善を確認し,少量から経口摂取を再開した.最終的に経口摂取のみで十分な栄養摂取が可能となり,2カ月後退院時に体重は6.5 kg増加し,栄養指標も改善した.以後は誤嚥性肺炎での入院は無く在宅生活を継続している.従来,サルコペニアの嚥下障害は誤嚥防止術の主な対象ではなかったが,リハビリテーション栄養療法が奏効しない場合に本手術の適応となる可能性がある.サルコペニアの病態は症例毎に多様であり,本手術は発声機能を失うという代償を内包するものであるため,その適応には倫理的な点を含め慎重な検討を要する.