患者さんの食べたいに応えたい

前田 恵理 さん
千葉県がんセンター 栄養科
(千葉県千葉市中央区)
「病院管理栄養士」を目指したきっかけを教えてください
実ははじめは「病院管理栄養士」は目指していませんでした。中高時代に陸上部だった経験から体と栄養との関係に興味を持ち、正しい知識を得て、それを正しく広める仕事がしたいと思い、管理栄養士を志しました。
初任地の病院での『待合室の栄養士』という仕事をきっかけに、本当の意味で“病院管理栄養士を目指しはじめた”といってもいいかもしれません。
主な業務、一日の流れなどをお聞かせください
現在の勤務先である千葉県がんセンターは、病棟担当制で、給食業務は委託、NSTは管理栄養士が専従しており、ここ2年ほどはがん薬物療法室での栄養指導にも力を入れています。私は、病棟担当管理栄養士として従事しています。


「病院管理栄養士」として現場で直面する課題にはどのようなことがありますか。またそれに対してどのような工夫をされていますか
管理栄養士の力だけではどうしようもない、と思うときがあります。そのようなときのためにも、日ごろから他職種スタッフと相談・意見交換をしやすい環境をつくるように心がけています。申し送りへの参加など、基本ですが、挨拶などのコミュニケーションは大事だと感じています。一方で、人に頼るためには、自分の専門分野の知識や見解はしっかりとかため、管理栄養士としてどう考えたかを伝えるようにしています。
また、患者さんへの対応や言葉掛けは難しいケースがあります。特にがんの終末期に向かう患者さん、バッドニュースを聞かされた後の患者さんなどへの接し方は、看護師さんの言動から学ぶことが多いです。

「病院管理栄養士」としてやりがいを感じるのはどのようなときでしょうか
当院では、「食べたいに応えたい」をモットーに栄養サポートを行っています。食べられないと悩んでいる患者さんが、食べることへの苦痛が緩和したとき。一口でもおいしいと思って食べることができたとき。そしてそれを嬉しそうに報告してくださったとき。”患者さんが困ったときに顔を思い浮かべてもらえる存在になれているかも!”、”患者さんの「生活」を支える力になれているかも!” と思えたとき、この仕事をやっていて本当に良かったなと実感します。

「嚥下機能が低下している患者さんやがんによるイレウスの患者さんに、『わたあめ(わたがし)』を作ってお出しすることも(給食としての提供ではなく、栄養科の業務として)行なっています」
「病院管理栄養士」を目指す方へメッセージをお願いします
「病院管理栄養士」は、医療者のひとりとして、患者さんの治療遂行に貢献することができます。昨今、栄養療法に対するエビデンスも増え、かつ診療報酬への関りなど、病院における管理栄養士の活躍の場はますますひろがっていくと思います。もちろん、それに伴い相応しい知識と技量そして経験を身につけなければなりません。

「医療において管理栄養士の役割としては一部分ですが、チームの一員として、自分自身ができることは何かを常に摸索し、行動するよう心がけています」
管理栄養士の強みは、臨床栄養の知識を前提に、食事という面から患者さんの生活に寄り添う力があるということです。食事は、生活の中でも大きな部分を占め、その方の今までの人生や考え方を反映するもの。そこに踏み込んでいくためには、患者さんに理解してもらえるよう説明する力や知識はもちろん、信頼関係を構築することも大切です。
臨床の現場では、「知らないこと」にもよく遭遇します。多職種での分業は必要ですが、チームとしての相互理解と対話のためには、他職種のエリアにも足を突っ込む努力をすることが大切だと私は思っています。自分の専門性を高めた上で、周辺知識も広く学ぶことが大切であるということ。つまり、「specialistである前にgeneralistでないといけない」ということです。 「患者さんの食べたいに応えたい!」それができる専門職が、「病院管理栄養士」ではないでしょうか。