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スクリーニングは何を用いて行えばいいでしょうか?

栄養サポートが必要かもしれない人(低栄養リスクがある人)を抽出するプロセスが栄養スクリーニングですので、可能な限り多くの(すべての)対象者にスクリーニングを実施することが望ましいと考えられます。つまり、信頼性(評価者が違っても似た結果が出る)と妥当性(栄養リスクを同定できる)があり、簡易かつ迅速に判断するツールが用いられることが求められます。例えば以下のようなスクリーニングツールの適用が推奨されます。

ツールの名称特徴
MUST
(Malnutrition Universal Screening Tool)
成人向け
汎用されている
NRS-2002
(Nutritional Risk Screening 2002)
病院向け
MNA®-SF
(Mini Nutritional Assessment Short Form)
高齢者向け
汎用されているMNA®に付属したツール
MST
(Malnutrition Screening Tool)
2項目で判定する
PG-SGA-SF
(Patient-Generated Subjective Global
Assessment Short Form)
PG-SGA(アセスメントツール)に
付属したツール
SNAQ
(Short Nutritional Assessment Questionnaire)
食欲評価ツールと略語が同じであるため、
誤用に注意

出典
Power L, et al. Clin Nutr ESPEN. 2018;24:1-13.
Kondrup J, et al. Clin Nutr. 2003;22(4):415-21.
Miller J, et al. Am J Clin Nutr. 2018;108(6):1196-1208.

アルブミン値でスクリーニングをしてはいけませんか?

アルブミンやプレアルブミンは栄養指標や体たんぱく量の代理指標では無く、炎症指標、予後指標として用いられるべきと考えられるようになりました。アルブミン値のスクリーニングでは、低栄養症例を見逃す可能性が少なくありません。栄養スクリーニングは採血等が不要で、簡便に実施可能である一方、十分な有効性が検証されているMUSTやMNA®-SFといったスクリーニングツールを用いるべきです。

スクリーニングツールとしてSGAを使用できますか?

栄養評価ツールは様々なものがあります。栄養リスクを判定するものがスクリーニングツールで、さらに詳細な栄養状態を評価(アセスメント)するのがアセスメントツールです。また、Prognostic Nutritional Index (PNI)のように合併症発生リスクを判定するリスク指標もあります。これらは、これまであまり区別なく使用されてきました。しかし、GLIMで診断する場合は、栄養リスクを判定する信頼性と妥当性が検証済みのスクリーニングツールを使用すべきです。SGAはアセスメントと診断のためのツールとして知られています。同様にアセスメントツールとしてはMNA®(フルフォーム)があります(ただし、MNA®-SFは検証済みのスクリーニングツールで、GLIMでの利用が推奨されています)。

筋肉量の低下はどのような測定方法が利用可能ですか?

断層画像(CTやMRI)、DEXA、生体電気インピーダンス法といった方法以外に、身体計測(下腿周囲長・上腕筋囲長など)による筋肉量の低下も指標として用いることが可能です。

GLIM 基準による評価の適応外となるのはどういう場合ですか?

成人にはすべて適応可能です。また、栄養スクリーニングにより「リスクなし」と判断された場合は、表現型基準、病因基準を判定する必要はありません。ただし、「リスクなし」の中に過栄養がありますのでご注意ください。
小児は別の方法で評価する必要がありますが、確立されたものはありませんので医師とご相談・ご判断ください。

胃瘻など経腸栄養のみの場合は食事摂取量の減少や消化吸収能の低下はどう判断すればいいですか?

経腸栄養の場合でも、必要量を充足出来ているか、最近投与量が減っていないかで摂取量の低下の判断をすることが可能です。下痢などの有無から消化吸収能の低下は判断できます。

病因基準のうち疾病負荷にはどのような疾患が該当しますか?

病因基準のうち疾病負荷には炎症を伴う急性および慢性の疾患が含まれます。
急性疾患には、重症感染症/敗血症、急性呼吸窮迫症候群、全身性炎症反応症候群、重症熱傷、大規模な手術、多発性外傷、重度の閉鎖性頭部外傷、重症急性膵炎など、急激に重篤な炎症を引き起こす疾患や病態が含まれます。CRP値の目安としては、基準上限値の10倍以上が適当とされています。
慢性疾患には、がん、うっ血性心不全、COPD、クローン病、関節リウマチといった自己免疫疾患、コントロール不良の糖尿病、メタボリックシンドローム、結核などの慢性感染症、HIV/AIDS、褥瘡、歯周病、慢性腎臓病、肝硬変、慢性膵炎、臓器不全/移植など、慢性的な炎症を引き起こす疾患や病態が含まれます。これらは、軽度から中等度の炎症が数週間にわたって持続し、CRP値の目安としては、基準上限値を超えてから5.0mg/dL程度までが想定されています。(Cederholm T, et al. Clinical Nutrition 2023.

https://doi.org/10.1016/j.clnu.2023.11.026.)
判断が難しい場合は医師と相談してください。

CRPの測定は必須ですか、また炎症の程度とCRP値の目安はありますか?

CRPの測定は補助的に目安となる指標で、必須ではありません。疾病負荷/炎症基準は炎症を伴う疾患の有無を、臨床的に判断することができます。最近出されたGLIMの炎症に関するガイダンスで、CRP値の目安は、0.3~0.99mg/dLが軽度炎症、1.0~5.0mg/dLが中等度炎症、5.0mg/dL以上が重度炎症と示されています。ただし、測定法による差異を考慮する必要があり、これらの値は大まかな目安と考えて下さい。(Cederholm T, et al. Clinical Nutrition 2023. https://doi.org/10.1016/j.clnu.2023.11.026.)

炎症を伴わない疾患・状態はどのようなものがありますか?

炎症を伴わない疾患や状態には、神経性食欲不振症やうつ病などの精神疾患、食道狭窄、短腸症候群、腸閉塞のような消化・吸収障害、脳血管障害後の嚥下障害などの神経学的疾患や、貧困、飢饉、戦争など、食糧の入手や摂取を妨げる状況が含まれますが、これらは直接、炎症とは関連しないため、CRPの上昇が見られない場合、疾病負荷/炎症基準には該当ません。これらの状態では、経口摂取量の減少や同化・吸収不全といった別の病因基準に該当することが多いと考えられています。(Cederholm T, et al. Clinical Nutrition 2023.https://doi.org/10.1016/j.clnu.2023.11.026.)

回復期リハビリテーション病棟でよく見かける疾患の疾病負荷/炎症の判断方法がわかりません

脳卒中や頚髄損傷については、発症直後は疾病負荷/炎症に該当するかを急性炎症の基準のCRP値の目安である基準上限値の10倍以上を超えていないかで判断してください。症状が固定した慢性期ではCRP値が基準上限値を超えてから5.0mg/dL程度までであった場合、原疾患ではなく、併存する誤嚥性肺炎、膀胱炎、褥瘡などの炎症が反映されている可能性があります。数週間、治癒に時間がかかると判断されるなら慢性炎症が存在すると判断し、疾病負荷/炎症ありとして良いと考えられます。
大腿骨近位部骨折については、手術直後は急性炎症の基準で判断してください。保存的治療や術後時間が経過した場合は、感染等により炎症がなければ該当しません。

誤嚥性肺炎については発熱などの炎症症状があれば急性炎症の基準で判断してください。発熱は認めない場合でも慢性的に痰の喀出や胸水などを認める症例は慢性炎症の基準で判断してください。

身長が測定できない場合はどうすればよいですか?

身長測定が困難な場合の標準的身長推定法は確立していませんが、いくつかの推定法が提案されています。以下に例を示します。

1) デミスパン(Demi-span)による推定
上肢を横水平方向に伸ばした際の胸骨中心から中指付け根までの長さ。以下の計算式により推定できる。(Bassey EJ. Ann Hum Biol. 1986;13(5):499–502; Hirani V, et al. J Am Geriatr Soc. 2012;60(3):550-554.)

65 歳未満65歳以上
男性57.8+1.40×demi-span[cm]73.0+1.30×demi-span[cm]-0.10×年齢
女性60.1+1.35×demi-span[cm]85.7+1.12×demi-span[cm]-0.15×年齢

2) 膝高(Knee-height)による推定
座位または臥位で足関節と膝関節を 90°に曲げた際の、足底から大腿上面までの長さ。膝高計などを用いて測定し、以下の式により身長を推定する。(宮澤靖,他.臨床栄養.2005;107:411-416.)

身長推定式
男性64.02+(2.12×膝高 [cm])-( 0.07×年齢[歳])
女性77.88+(1.77×膝高 [cm])-( 0.10×年齢[歳])

3) 尺骨長(Ulna length)による推定

腕(主に左腕)を折り曲げて反対側の肩方向に伸ばした際の肘頭から尺骨茎状突起までの長さ。テープメジャーなどにより測定し、以下の式により身長を推定する。(Barbosa VM, et al. Eur J Clin Nutr. 2012;66:209-215.)

65 歳未満65 歳以上
男性84.5+3.2×尺骨長(cm)84.7+3.2×尺骨長(cm)
女性92.0+2.9×尺骨長(cm)78.5+3.3×尺骨長(cm)

その他、円背などにより身長測定が困難な場合、体をいくつかのパートにわけ、基準間の距離を合計する方法などがあります(望月弘彦.日本静脈経腸栄養学会雑誌. 2017;32(3):1137-1141.)。ただし、上記で紹介した方法は日本人において再現性が高い方法として確立したものではありません。また本人・家族からの聞き取り等により得られた値を代用することもできますが、正確性には問題があるため解釈には注意しましょう。
下腿周囲長のカットオフ値はどのように決めれば良いですか?

トピック筋肉量減少の判定に使用する評価法とカットオフ値を参照ください。

四肢に欠損部位がある症例のBMIはどのように推定しますか?

いくつかの推定方法がありますが、一例として以下を紹介します。(Russel MK, Mueller C.Nutrition screening and assessment. In: Gottschilch MM edited. The A.S.P.E.N. Nutrition Support Core Curriculum: A case-based approach –the adult patients. American Society for Parenteral and Enteral Nutrition., Silver Spring, MD,2007. p163-186.)

【手順】
1) 人体の各部位の体重に占める重量%(下図)を基に、切断肢の体重に占める推定重量%を求める。
2) 切断後の体重を(1-欠損肢の推定重量%)で除し、切断肢が存在していると仮定した場合の推定体重を求める。
3) 切断前の推定体重を身長の二乗で除し、切断肢が存在していると仮定した場合の推定BMI を求める。

【解説】
例えば片側膝上切断の場合、大腿~膝、膝~足首、足首から先、の 3 つのパートを合計して 10.1+4.4+1.5=16%が本来の体重から失われたと考えます。同様に、片側膝下切断なら5.9%、片側上肢切断(上腕から)なら 5.0%が切断のために失われたと仮定します。片側膝上切断の場合、身長 170cm、体重 45kg とすると、下肢が欠損していないと仮定した場合の推定体重が 45.0÷(1-0.16)=53.6kg、推定 BMI が 53.6÷(1.7)2=18.5kg/m2です。このように、四肢切断後の症例については切断肢が存在していると仮定した体重から推定 BMI を算出することができます。
四肢切断によって生じた体重損失は低栄養の徴候ではありませんので、GLIM 基準における体重減少の判断に用いるべきではありません。ただし、切断による体重損失だけでなく食事摂取量不足や疾患負荷に伴い全身性の骨格筋量減少が疑われる場合、欠損肢の推定重量から「四肢切断とは無関係に失われた体重」を推定し、体重減少率を算出することができます。例えば片側膝下切断の症例で、切断前体重 55kg、切断後体重 50kg の場合、切断肢の推定重量は 55kg×5.9%≒3.2kg です。一方、下肢切断と無関係に減少した体重の推定値は(55-50)-3.2=1.8kg です。後者の切断後体重に占める割合は 1.8kg÷(55-3.2)kg≒3.5%であり、GLIM 基準における体重減少のカットオフ値を下回っているため「体重減少なし」と判断できます。

重症度の判定は必要ですか?また、重度低栄養の基準値はどう設定しますか?

トピック重症度判定に関するQ&Aを参照ください。

2024年4月25日版